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中村 光信
マウンテン&ウォーターマンでありグラフィックデザイナー。 オヤジと呼ばれる歳になっても今なお自然を舞台に実践し続けているエクストリームな遊びと、 デザイナーとしての腕一本だけを武器に、好きなことで稼いで自分らしく生きていく、自称「エクストリームオヤジ」として世の迷えるオヤジ達をそそのかすような発信とゴキゲンなライフスタイルを実現する可能性をExploring!

僕は、夢枕獏という小説家が好きだ。

名前くらいは聞いたことがある人も多いだろう。初めて夢枕獏の小説を読んだのはまだ二十代の頃だ。確か「遥かなる巨人」というタイトルの短編集だったと思う。この短編集は、彼の比較的初期の作品を集めたものだったと思うが、幻想SF傑作集という位置づけになっているらしい。

この中に納められている作品は、どれを取っても当時の僕にはとても斬新なアイデアで、文体も含め一発でファンになってしまった。

それからというもの彼の作品を読み漁ってきたが、巷では「陰陽師」や「キマイラシリーズ」等のイメージが先行している中、実は山岳小説も多く手がけていて、そのどれを取っても秀作ぞろいなのだが、中でも「神々の山嶺」という長編は本当に傑作だと思っている。

この山岳小説はヤバい。

特に何かの現役を退いた、もしくは退くことを考える世代のオヤジ達には毒だ。僕がこの山岳小説を読んだのは初版が出てすぐの1997年の夏だった。

実はこの年の10月、僕はヒマラヤ遠征に旅立つことになっていて、その直前にこの小説を読んでしまったのだが、それによって僕のヒマラヤ登攀意欲は極限まで高まってしまったのだ。

 


ゴリゴリのあらすじはこうだ


 

話のあらすじを簡単に説明するとこうである。

 

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主人公の山岳カメラマン深町が参加していたエベレスト登山隊が失敗し、カトマンズへ戻りとある店で古いカメラが売られているのを見つけそれを購入する。

深町はそのカメラが1924年にエベレスト初登頂を目指していたマロリーが、帰ってこなかった最後のアタック時に携行していたカメラなのではないかと疑い始める。

実はそのカメラは盗品で、元の持ち主がビカール・サンと現地で呼ばれる日本人だということが分かる。その日本人は、数年前にこつ然と姿を消した伝説のクライマー羽生丈二だった。

このカメラは、本来ならエベレストの8000メートルより上にあるべき物なのに、何故いまここにあり羽生が所有していたのか?そもそも羽生はネパールに潜伏して何をしようとしているのか?

ヒマラヤ登攀史を塗り替えるとてつもないことが今起ころうとしていた。

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こんな感じなのだが、基本的にはヒマラヤ登攀史と日本の登山界の歴史をなぞりながら、架空の人物たちを物語の中心に据えて、その周りを実在の人物も配置した世界観となっている。

 


モデルになったクライマー森田勝もゴリゴリだ


主人公格の羽生丈二という人物は、実存した伝説的クライマー森田勝がモデルとなっている。

もしクライミング中にザイルで繋がれたパートナーが墜落して宙づりになり、2人とも動けなくなってしまったら、「オレなら迷わずザイルを切る」と言い放ったという逸話と、当時不可能とされていた谷川岳一ノ倉沢滝沢第三スラブの冬期初登攀という記録が彼の伝説を作った。

ヨーロッパ三大北壁で最も難度の高いグランドジョラス北壁の単独登攀中に墜死してるのだか、もし森田勝が生きていたらどうなっていたかという問いが作者の中にはあったようだ。

そこにマロリーは果たしてエベレストの頂上を踏んだのかという、ヒマラヤ登山史の最大の謎を絡めて壮大な物語を展開しているのだ。もう既に、先鋭的なクライミングからは退く年齢となった羽生がいまだ現役で、なおかつ、世界最高の登攀記録を狙っている。

それを間近で見た深町も、諦めかけて、もう自分の中の奥底に眠らせようとしていた、山に対する欲望に火が付く。

 

ゴリゴリ漢のロマンとハードボイルドだ。

社会や生活に流され山の現役から遠ざかっても、遠くに見える白く険しい峰々を眺めると、熱い気持ちがこみ上げてくるような部類の人間には、「オレもまだやれるのではないか。」という気持ちを呼び起こしてくれる作品だ。

 

 

そして遂にこの山岳小説が映画化され、今年の3月には公開されることになったようだ。

深町役が岡田准一で羽生役が阿部寛ということで、原作のキャラのイメージとはちょっと違う気がしたが、予告編を見ただけで熱いものがこみ上げて来てしまった。ぜひ観に行きたいと思っている。

 

いま改めて、この山岳小説「神々の山嶺」を読み返しているが、この作品は20年近くを経た今なお、ゼッタイに面白い。

 

この記事を書いた人

中村 光信
中村 光信
マウンテン&ウォーターマンでありグラフィックデザイナー。
オヤジと呼ばれる歳になっても今なお自然を舞台に実践し続けているエクストリームな遊びと、 デザイナーとしての腕一本だけを武器に、好きなことで稼いで自分らしく生きていく、自称「エクストリームオヤジ」として世の迷えるオヤジ達をそそのかすような発信とゴキゲンなライフスタイルを実現する可能性をExploring!