
西田 幸夫

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- 救急車を呼ぶとお金がかかるのが普通になる!? - 2016年1月3日
事故や急病など、いざという時に、何と言っても頼りになるのは救急車。
その救急車に、今、黄信号が点滅している。
それは何かと言うと?
次の図を見てもらいたい。

救急車の現場到着時間が、
平成13年から25年までの12年間で2.3分遅くなっているのだ。
この2.3分の遅れの意味するところは大きい。
事故等により心肺停止となった場合、
救命処置を開始する時間が、1分遅れるごとに、
命の助かる割合は7~10%低下する。

つまり、この12年間に、
心肺停止と同時に救急車を呼んだと仮定した場合の救命率は、
約2割低下したということになる。
これは、当局ならずとも放置できない大問題だ。
この救命率を向上させるために、ドクターヘリが配備され、
一刻を争う重篤な患者の搬送に活躍している。
例えば、事故現場の至近距離に着陸し、
状況判断によっては、開胸術を施して、
心臓を鷲掴みにして蘇生させる豪腕の医者がいる。
しかし、このドクターヘリの恩恵にあずかれる人はわずかで、
大多数の市民は救急車に頼らざるをえない。
この救急車到着の遅れの要因として考えられるのは、
モータリゼーションの進展による乗用車の増加とそれに伴う渋滞があげられる。
同時期の乗用車の増加は、
5245万台から5936万台と約690万台に上り、
約13%増加しており、年々増え続けている。

また、救急要請は、年間600万件を突破する勢いで増え続けており、
1分当たり11件以上も出動している。

通報を受けた時点で既に近くの救急車は出動中で、
より遠いところの救急車を出動させざるをえないこともある。
が、しかし問題は、その中身だ。
次の表を見てもらいたい。

救急車で搬送された人のうち、軽症の患者が約半分もあり、
乳幼児や少年では約3/4が軽症である。
これに対して、ポスターを掲示するなどして啓蒙しているが、どれほどの効果があるだろうか。

実際に救急車を呼んだ理由について、
「自分で行くとタクシー代がかかるから」、「眠れなくて誰かに話を聞いて欲しくて」、「自分で行くと待ち時間が長いから」といった驚くべき内容のものもある。
東京消防庁では、8年前から「救急搬送トリアージ」を実施している。
「トリアージ」とは、
戦場や災害時に、治療や搬送の優先順位を決定することを指す。
「救急搬送トリアージ」は、
平常時に個別の傷病者に対して、
緊急度、重症度を評価し、
その結果に応じた搬送体制を提供するもの。
通報を受けて出動した現場で、
救急隊が緊急を要する重症と判断すれば、速やかに救急搬送する。
しかし、明らかに緊急性が認められない場合、
自身での医療機関受診を要請する。
必要であれば、受信可能な医療機関や民間救急コールセンター、
東京消防庁救急相談センターなどを案内する。

この「救急搬送トリアージ」は、
救急医療の現場では、今最も注目されていることの一つだが、
これとても、あくまでも緊急出動した上での対応となり、
時間的経済的ロスは避けられない。
なんとか、緊急性の高い人を
優先的に搬送する仕組みはできないのか?
そこで浮上してきたのが、救急車の有料化だ。

海外では、救急車を呼ぶと3~5万円程度は普通に費用としてかかるところが多い。
Yahooの「救急車の有料化に関する」アンケート調査によると、
「重症患者以外は有料化(患者の状態に応じて払い戻しを医師が判断)」
という意見が6割、
「症状に関係なく有料化」
が2割を占めている。
この患者の状態に応じて払い戻しを医師が判断というのは、
患者の治療で手いっぱいの医師に、
新たなる精神的負担を求めることになり、
あまり賛成できない。
救急車が有料ということになれば、
それに対応した保険商品が開発されるに違いないから、
払い戻しということは考える必要はないだろう。

では、どれくらいの料金が適当だろうか?
タクシー代がかかるからという理由で利用されるのを防ぐためには、
それ以上の料金設定が必要になる。
救急車が1回の出動でかかる経費は、4万5千円程度と言われており、
受益者負担を求めるとすれば、その半分程度の、
2~3万円くらいの請求が適当ではないだろうか。
例えば、
75歳以上の後期高齢者は2万円、
それ以外の者は3万円
という具合だ。

ただし、例外はある。
医師が診察の結果、
速やかに他の病院での治療が必要と判断した時、
患者の意思に関わりなく、
救急車による搬送を要請することがあり、
こうした病院間の搬送の場合は、
無料が望ましい。
また、いたずらで出動した場合は
懲罰的な意味も込めて
実費以上の5万円くらいは請求すべきだ。
この救急車有料化のデメリットとして、
経済的に苦しい人は払えないので、
弱者ほど有料化の影響は大きく、問題だという。
生活保護を受けているような方に対しては、
確かに配慮する必要がある。
市町村の担当部局の方が緊急性を認めた場合には、
救急車料金を保護費から支出する、
というような工夫が必要だ。
事故の現場で救急車を呼ぶ前に、
クレジットカードはお持ちですか?
などと尋ねるようになる時が
案外もうすぐやってくるかもしれない。
この記事を書いた人

- 新幹線が開業した富山出身で、熱海市に住んでいます。 趣味は朗読で、コミュニティーFMに出演することもあります。 夢は、可能な限り飢餓に苦しむ子どもたちを救うことです。
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